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	 昔からの夢の一つが叶いました。 
熊本は江戸時代は肥後藩といい、加藤清正が熊本城を築城して以来、立派な城郭とそれを囲むようにした城下町が発展してきました。しかし、明治10年に起こった西南の役で、古い城下町一帯が灰燼に帰したのは残念なことです。 
明治19年に発刊された「熊本県 商工技芸早見便覧」と称する一種の企業案内には、当時の代表的な商家120数軒が銅版画となり紹介されています。その中の一つがわが社の前身である乾物問屋「かめや」ですが、もちろん西南の役の跡に再建された店が版画となって残されています。 
それら紹介された商家の中で唯一現存しているのが、新町にある吉田毒消丸という薬を製造する「吉田松花堂」です。その老舗に、50年ぶりに訪れることができたのは、冒頭に述べたように、長年の夢が叶ったというものでした。 			 
				
	特別なものや非日常な体験というのは、知らず知らずの内に記憶に残っているものです。 
当時、つまり私が小学校4年生か5年生の頃ですから、ほぼ50年前のことになります。運動会のクラス対抗リレーの打ち合わせをすることになって、関係者が集まったのが吉田家の座敷でした。堂々として店構えの中に入ると暗い土間があり、その先の座敷から見た築山のある広い庭に、子供ながら大いに感動したものです。 
立派な庭の記憶があったお陰でリレーの打ち合わせをしたことを覚えている訳で、庭がなかったならばリレーに出たことすら忘れていた可能性が大きかったでしょう。まさに、記憶は何かと連動して強まるものなのです。 
さて、果たして50年前の記憶は正しかったかどうかと言いますと、約30%程度は記憶に近似していたというところです。築山と池は記憶のままにありましたが、細部となると全く新鮮な目で見る思いでした。 
お住まいになっている吉田家の皆様の旧家を守る苦労を感じたのですが、事前に想像していた通りに、熊本市内の民家の庭としては名園であることは間違いないと確信しました。 
それにしても、私の家が今となっては影も形もないのが惜しまれる一日でした。			 
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