芭蕉林通信(ブログ)

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2019年02月05日 火吹き達磨と雲竜水師

 明治18年と言えば今から130年余り前のことだが、その当時の熊本の業種別一覧表が残っている。その名は「熊本市街 玉尽くし独り案内」と言う。現在で言えば、NTTが発行しているイエローページと言ったところだ。そこには明治2年に創業した我が社が、乾物と椎茸及び茶問屋の欄にそれぞれ亀屋の屋号で記載されている。当時の職業には今に続くものもあるが、今となっては職業として成り立たないものや正体不明のものもあって興味深い。中には歴史的な痕跡として貴重なものもある。

 順不同だが、まず歴史的なものとして気づくのは「相撲司 吉田」である。これは全国に唯一の相撲の総元締めであり、当時の横綱は必ず吉田家から免状を頂いていた。その後一家の金銭問題があり吉田家は消滅したが、熊本の宝を一つ失ったに等しい。さらには固い職業では陸軍御用、汽船取扱問屋、仏師、武力細工などがある一方、庶民派職業として軍談、とりもち、開花餅、琉球物品などがある。遊興的な職業では長歌、琴、小鳥売買、上等高貸座敷などがある。上等貸座敷の筆頭に東雲(しののめ)があるからはこれは遊郭のことと想定できる。このように各種の業種を並べてみただけで、当時の熊本の雰囲気が窺われて面白い。

 さて問題は正体不明の職業だ。例えば、火吹き達磨と雲竜水師。火吹き達磨についてはネットで調べた結果、火を熾す時にその脇に置いて発火を良くする道具を知った。ネットオークションでは人気があるらしく、その希少性ゆえにまだ手に入れられずにいる。一方雲竜水師については、文字から推測して昔の消防道具の一種で、手ポンプのごときものではないかと推測した。果たしてネットでは、昔の消防道具として竜吐水又は雲竜水が紹介されている。先日大河ドラマ「いだてん」の金栗四三さんの生家を訪ねた際、蔵に置いてあったものが雲竜水(または竜吐水)ではないかと想像している。であれば雲竜水師というのはその道具を作る人という意味だろうか。歴史を学ぶには想像力を駆使する必要がありそうだ。

2019年01月30日 一羽の鴛鴦(オシドリ)

 オシドリ夫婦と言えば仲の良い夫婦の代名詞だが、実際のオシドリはあまり仲が良くないとか聞いたことがある。かつて読んだ鳥の本には浮気ばかりする鳥が紹介されていたので、鳥の世界も人間同様にいろとりどりなのであろう。先週家の近くを散歩していたら、橋の上で見知らぬ人に声を掛けられた。川に野生のオシドリがいると言う。なるほど、鴨の夫婦と一緒に一羽のオスが川の流れに乗って遊んでいる。どういう訳かメスはいない。それにしても綺麗な鳥である。オシドリが見知らぬ人との縁を作ったという印象が残った。

 さらにオシドリを見ていて中学時代の英語の教科書を思い出した。鳥を観察することをバードウォチングというが、その方法についての英文であった。観察したい鳥には太陽を背後にして近づくべし。太陽に向かって鳥に近づくと鳥はシルエットに見えて観察できないとあった。そのシルエットのスペルsilhouetteが長くてヘボン式綴りとは違うと感じたことにより50年後の記憶に残ったのである。

 安土桃山時代の一巻の書には金箔をあしらったオシドリの絵がある。夫婦円満の象徴としてオシドリは昔から特別な存在だったのかと想像が膨らむ。真実はともかく夫婦仲の良いオシドリを信じることは、ぎすぎすした現代社会では決して悪いことではない。信じれば救われる、不合理ゆえに吾信ず。理屈はどうであれ、一人でいるよりは二人仲が良いことにこしたことはない。それにしても、川のオシドリにはどうしてメスが一緒にいなかったのだろう、繁殖期と子育て期を終えて旅立とうとしていたのだろうか。

2019年01月21日 村上隆さんと目白の坂田さん

 昨年12月15日から熊本市現代美術館で世界的な現代アーティスト・村上隆さんの個人コレクション展「バブルラップ」が始まった。「笑う花シリーズ」などの作品で有名な村上さんについては、それまではルイビトンのバッグのデザインをしたことぐらいしか知らなかった。ところが、一昨年に横浜で開催された村上さんのコレクション展「スーパーフラット・コレクション」を見て、その収集の質量の膨大さに目を奪われる経験をしたのである。

 村上さん本人へ会いたさ一心に開催前日のトークショーに馳せ参じると、立ち見席が出るほどの盛況ぶりだった。熊本市民も見る目があるじゃんと内心感心した。本人の1時間余りの話は、世界の現代アート事情が分かって興味深かった。展覧会場で目を引いたのは東京の目白にある「古道具 坂田」の店の再現である。坂田さんは知る人ぞ知る古美術界のカリスマだが、私もいつしかその店を尋ねるようになり、これまで延べ20回ほど坂田さんとお話している。飾らない性格、飄々とした風格、誰にも気さくに接してくれるのが坂田さんの特色である。

 再現された店は馴染みの私から見ても雰囲気を捉えている。とはいえ、写真で確認すると、やっぱり本物の枯れ方はすごい。スケールは実際の二分の一ぐらいだが、店の空気感、材質感を再現する努力の跡は感じられる。これも一種の芸術作品かと思ってしまった。その場には村上隆さんが坂田さんから購入した物が多数飾られているのが楽しい。期間中あと2回は見に行くつもりだが、坂田さんの店の素晴らしさに気づく人は何人ぐらいいるのかなあと想像している。

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