2005年11月26日 九州新幹線全線開通までの課題
![]() タイトルは「イベントより100年の街作りを」としました。 熊本県民の悲願であった九州新幹線全線開業がいよいよ6年後に迫った。しかし、周りを見回してみると決して浮かれているという雰囲気はない。むしろ、懸案事項が軒並み具体化してきて対応に追われているといった状態だ。 そのようなムードを醸し出しているのは、先行して開通した八代や水俣地区が新幹線の恩恵に恵まれなかったという事実があるからであろう。いやむしろ、八代ではほぼ同時期に誕生した複数の郊外ショッピンセンターによって中心商店街の疲弊が一段と進展し、水俣の温泉街は期待と裏腹に客足が遠のいた。肥薩オレンジ鉄道の経営もけっしておもわしくはない。こうした現状を見る限り、九州新幹線の全線開業は十二分な準備を怠れば、マイナス現象を覚悟しなければならないといったことを多くの識者が認識し始めている。しかし、強い危機感があって初めて課題の分析が進み、対応策が打てるのだから今日までの結果は熊本県民にとっては小手調べとしては良かったのかもしれない。もっとも反省を怠り同じ愚を繰り返すことはよくあるのだから心配ではある。 熊本市では、九州新幹線全線開業を先取りしたと思われる気になる動きがすでに出始めている。熊本市内に設置されていた全国大手企業の支店や営業所が閉鎖され、福岡に統合する動きが出てきている。そのためか熊本市中心にあるオフィスビル群の空室率が高止まりしている。最近では日本郵政公社九州支社が郵便営業機能の一部を福岡中央郵便局内に移して熊本県民にショックを与えた。どうやら、拠点機能の空洞化が新幹線全線開業に先んじて進んでいるようなのである。 観光統計面では厳しい数字が発表された。平成16年に熊本市を訪れた観光客数は3年連続の落ち込みとなり、過去40年では最低の412.5万人の水準となったのである。一方、熊本市内では続々とビジネスホテルが建設されており、ここ数年間で約1500の客室が増加し、さらなる新設計画が進行中である。既存施設の客室稼働率の落ち込みはまぬがれようがないのである。 とはいえ、新幹線絡みのいくつかの事業が着実に進行しているのも事実である。その主なものを列挙すると、熊本駅前広場の整備計画、同南A地区の市による再開発、熊本駅周辺の連続立体交差事業、合同庁舎の元月星化成工場跡地への移転、県内観光推進団体の統廃合と役割の見直し、夏目漱石が利用したという上熊本駅舎の一部保存などがある。 ただ悩ましい問題としては、JR鹿児島本線の連続立体交差事業の完成が2016年頃と長期に亘ること、また九州新幹線全線開業後の熊本駅と熊本空港とのアクセス問題が未解決、郊外大型ショッピンセンターによる中心商店街の空洞化の懸念、熊本駅と中心市街地との結節の方法などがある。さらには、熊本市の政令指定都市への移行が重要な課題として議論されている。 ところで一昨年の九州新幹線一部開業の時、有志が集ってこれをビジネスチャンスにすべく「肥後の赤・薩摩の黒」というプロジェクトをスタートさせた。これは、鹿児島県の食文化が「黒」に因んだ物が多いのに目を付け、当県の食文化は「赤」で勝負しようと画策したものである。即ち、赤牛、赤酒、馬刺、スイカ、火の山阿蘇という具合である。幸い当県ではこれをきっかけに「赤」というイメージが浸透したのは嬉しかった。地元のJリーグ入りを目指すサッカーチーム名は「ロッソ熊本」に決定したが、ロッソとはイタリア語で赤の意である。また、春雨を使った郷土料理「太平燕(タイピーエン)」が一挙に全国に知られたのは、かつて経験のない快挙であった。とはいえ、鹿児島の「黒」ブームに比較すると劣勢は否めなく、6年後に捲土重来を期すといった中途半端な結果になっているのは残念なことである。 前述の「ロッソ熊本」がスポーツ文化を介した県民運動とするならば、歴史・文化・芸術の分野での県民運動が一昨年発足した「熊本城400年と熊本ルネッサンス」であろう。産官学の参加を得たこの会では、肥後学を学びつつ2007年の「熊本城築城400年祭」を第一ステップに、九州新幹線全線開業を第二ステップの本番として位置づけ活発な運動を開始している。実行部隊としては、「熊本城の利活用」「新しい祭りの創出」「坪井川の活用」があり、昨年は「水灯り(みずあかり)」が熊本中心街の夜を幽玄の世界に変えてくれたし、今年は坪井川で精霊流しが久々に復活した。 「熊本城築城400年祭」は現在熊本市の委員会で内容について検討中だが、イベント中心に組み立てられるのであれば、一時的に集客はできても一過性で終わる公算が大きい。私見を言わせてもらえれば、イベントはできるだけ控えめにして、今後熊本城を中心とした熊本の街をどう作っていくのかという100年のグランドデザインを描き、そのスタートを切るといったものにすべきだろう。そうして初めて、九州新幹線全線開業後のビジネスチャンスを一時的なブームで終わらせないことが可能になると思う。そしてできれば肥後藩歴代の殿様であった細川家のコレクション「永青文庫」の恒久的な展示スペースを新設してもらいたい。美術品1万点を数える「永青文庫」は熊本県が誇る文化遺産になってくれるに違いないのである。 新幹線開業後は大阪と2時間50分で結ばれるという大交流時代が待っている。果たして熊本が通過県になるかならないかは、この6年間の準備と発想の転換次第と考えている。 |
2005年11月01日 月めくりカレンダーもあと2枚
![]() 阿蘇の垂玉温泉にかかる滝の周りは紅葉が始まり、秋冷という言葉を突然に思い出しました。 阿蘇は伏流水を数多く抱え、熊本平野に入り至る所で湧き水となり、熊本市民の喉を潤してくれます。サントリーのビール・飲料工場が熊本に進出したのも、豊富な地下水が決め手になったのではないかと思います。 「よどみに浮かぶうたかたはかつ消えかつ結びて久しく止まることはなし」という一節を昔の古典の授業で教えてもらったことがあります。当社が属する流通業は、まさにこの「無常観」がぴったりと言えます。昨日の覇者が明日の敗者になるのを数多く見かけてきました。当社もその例外ではありません。生き残るためには常に創意工夫が必要と思っています。たまさかこういった無常観に浸るのも、秋の静かな雰囲気がなせる技なのでしょうか!? とはいえ、商売の世界では始末が大事であり、終わりを全うしなければなりません。壁のカレンダーを新年版に張り替えるときには、気持ちよく一年を振り返ることができるように最後の努力をしたいものです。 |
2005年09月26日 熊本郊外SC事情
![]() 今年になって県南の拠点都市八代に2店目の大型SCができた。車で5分程度の距離にイオンとイズミの巨艦店が一年の間隔を置かずにできたのである。 そもそも八代市は八代港という県内屈指の貿易港を抱え、セメントや紙などの工業都市として発達してきた歴史がある。最近まで工場の閉鎖縮小などがあり、人口は10万人内外で推移してきた。(最近の市町村合併で14万人に市人口が増加した。) そのような古い歴史を持った八代には当然ながら、地元の食品SMも数多く出店し競い合ってきた。そうした状況のなかでの大型店2店の出店は、まさに黒船来航の趣で捉えられたに違いない。 また喩えて言えば、小さな池に突然鯨が2匹迷い込んだようなものであり、鯨も餌をとるのに苦労するが今までその池に住んでいた鯉や鮒・ザリガニも大変な目にあっているということだろう。外来種が巨体を利用して勝ち残るのか、在来種が雑草の強さを活かして生き残るのか注目が集まっている。 熊本市内では10月に嘉島のダイヤモンドシティがオープンする。そして、イオングループは熊本空港インター近くの砂土原にも進出を表明した。ここで地元の商工業者の懸念は一挙に吹き出した感がある。というのは、嘉島のSCは御船インターへの幹線道路を渋滞で塞ぐ懸念があり、砂土原は熊本中心部から熊本空港への幹線道路をこれまた渋滞させる危険性を内包しているからである。 特に後者の不安は大きく重大である。なぜかならば、6年後に全線開通する予定の九州新幹線のための街作りを根底から破壊する可能性があるからである。 一つに、上通りや下通りといった熊本の中心商店街の空洞化の懸念がある。二つ目に、熊本駅と熊本空港のアクセスが今でも不安視されているのに、砂土原にSCができた場合渋滞は深刻化し熊本空港の利用に重大な悪影響をもたらす可能性がある。 21世紀は地方の時代になると思われるが、小売業が地域密着産業であるのならば進出する地域との会話なくしては社会的使命を果たしたとは言えないのではないだろうか。消費者側も、便利だから小売店は多ければ多いほどがいいという短絡的な見方ではなく、未来の地域のあるべき姿を描いて議論してほしいと思う。 そうでないと、今のところは郊外SCの陰ばかりが目に付くのが熊本の現実なのである。 |