芭蕉林通信(ブログ)

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2023年09月05日 Aさんが遺したもの

 人には心の内にある哀しみをあえて吐露しなければおさまらない時がある。2歳年上の能面士Aさんが亡くなった。二日前のこと、久しぶりの酒食に誘うために電話したが繋がらなかった。虫の知らせか安否が気になり、知り合いに訊ねたが事情は知らないと言う。Aさんと初めて会ったのは昨年の10月だから1年にも満たない付き合いだったが、その間無理を承知で好きな能面を数面打ってもらい、その度に食事をした。何度聞いてもAさんの話は面白かった。

 たった一つの懸念がAさんの身体が癌に侵されているという事実だった。それでも私の希望に沿って素晴らしい面をいくつも打ってくださった。生涯独身だったので静かに旅立たれたのか、お亡くなりになったのは2週間も前のことだった。Aさんらしい最期と思った。

 それにしても人間は死んで何を遺すのだろう。少なくともAさんの場合は、能の舞台で使われる能面や修復された古面など確かな形の物が長く世に残るはずである。私の手元にはAさんが精魂込めて打った能面が遺された。私は幸せ者だと思っている。それらの能面を観る限り、Aさんはまだ生きいると思えるからである。ご冥福を心から祈りたい、良い出会いに感謝しながら。(写真は最後の作・慈童)

2023年09月01日 杖

 車で出勤する時、あるいは退社する時、脚が悪くて身体を揺すらせながら歩く女性とすれ違うことがある。歩道がなく交通量の多い道路なので、車と接触しないかと気が気でない。女性自身の顔からも緊張感が伝わってくる。

 女性に誰か介護者はいないのか、車で送り迎えしてくれる人はいないのかといつも思う。ひょっとしたら一人暮らしをしているのかも知れない。だとすれば、せめて杖を突いて欲しいと思う。母の脚が弱まった時に杖を突くように勧めたら、まるで尊厳を失うかのように拒否されたことを思い出す。

 「転ばぬ先の杖」ということわざがある。多分、個人の生き方、家族のあり方、さらには会社での仕事の仕方にも当てはまるだろう。大事なのは、危険を感じる嗅覚と拘りを捨てた柔軟な対応力だ。これからも「こだわらない、かたよらない、あきらめない」の精神を持ち続けたい。脚の悪い女性の安全を心から祈りたい。(写真はバリ島土産の杖)

2023年08月22日 キャリアの成り手不足

 銀行マンになって広島支店で4年目を迎えた1976年の夏、突然建設省(現国土交通省)に行くよう命じられた。寝耳に水の異動辞令に慌てて紀伊國屋書店に行き、官庁シリーズの一冊「建設省」を入手してにわか勉強した。

 配属先は霞ヶ関の本省大臣官房政策課という省全体の政策を調整するところである。当時の私が勤めていた銀行は中央官庁との人事交流が盛んで、常時20〜30人の行員が各種機関に派遣され、国策と金融業務の一体運営に尽力していたのである。

 そのわずか2年間の出向経験から類推するに、昨今のキャリア(国家公務員上級職)の成り手不足の原因は次のように考えている。もちろん、世上言われているブラック企業化したキャリアの職場環境とは別の視点である。その第一は、政治家主導によりキャリアの活躍の場が大幅に減少したこと(優秀な政治家もいればそうでない政治家もいよう)。第ニに、キャリアのトップである事務次官の意思表明の場が全くなくなったこと(かつては大臣と事務次官が一緒に記者会見していた)。最後に、その結果としてキャリアの誇りややり甲斐がなくなったこと(これは民間企業にもありえることなのでトップは要注意)。この見解は一時的なキャリア経験者の偏見かも知れない点、ご容赦のほどを。

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